曲がり角の向こう

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD) 公共政策大学院の日々

サルガドの写真

今日サンディエゴのBalboa Parkにある写真美術館で、久しぶりにサルガドの写真を見て色々と思うことがあったので、少し書きたいと思います。

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セバスチャン・サルガド。ブラジル出身の写真家で、アフリカの難民や先住民の生きる姿を撮り、名だたる賞に輝いています。私がサルガドに出会ったのは2009年、東京の写真学校の公開講演で、今でもサルガドの独特の佇まいを覚えています。ブルーのシャツを着て、すっと現れ、まるで僧侶のような落ち着きを持ち、俗世間とは別の世界で生きている人だと思わせる崇高なものを感じさせました。そしてまた深い悲しみも抱えて生きている人だと思わせる憂いがありました。そこで彼が話したことは、残念ながら記憶にほとんど残っていないのですが、サルガドの存在感は今でも映像として私の記憶に深く残っています。

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2009年当時、サルガドの写真を恵比寿の写真美術館で見たとき、写真一杯に溢れるアフリカで生きる人々の強さや逞しさに何より感動したのを覚えています。でも、今日サルガドの写真を見て感じたのは、むしろ被写体を包み込むサルガドの愛情でした。過酷な土地で生きる人々や野生動物に対する彼の愛情に満ちた目線を感じて、じんわりと温かな気持ちになりました。それは、もしかしたら私が紛争終結から立ち上がる人々とスリランカで2年ちょっと生活を共にしたことも影響しているのかもしれません。サルガドの写真が今までよりもずっと近いものに感じられ、もっと好きになりました。

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写真美術館を出たら、そこは30分前にいたサンディエゴの賑やかな場所だったのだけど、何だか心が落ち着かなくって少し静かな場所に移動しました。サルガドの写真は人間・自然の「生」の本質を映している。だから、情報とモノに溢れた現代社会では、そうした生々しい「生」は、最も端っこに追いやられているのかもしれない。でもその強烈な「生」のエネルギーを見てしまうと、今人々が最も素晴らしいと思って作り上げた社会やその社会の基盤となっている価値観が何となく嘘くさく感じてしまったのだと思います。Balboa Parkの坂道を下りながら、一人で思いに耽った土曜日の昼下がりでした。

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