曲がり角の向こう

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD) 公共政策大学院の日々

UCSDで経験したDiversity

先週鎌倉の由比ガ浜にある、鎌倉文学館へ行ったのですが、出口付近に特集されていた作家井上ひさしさんの言葉が印象的でした。井上さんは、私は平和について語るときに出来るだけ「平和」という言葉を使わずに「日常」と言うようにしています。なぜなら平和と言う言葉があまりに使い慣れすぎていて、本来意味するものが失われている気がするからです、ということを仰っていて、なるほどなと思いました。

これは、今アメリカから世界中に広まっている人種差別についても同じことが言える気がします。人種差別、と言った瞬間に、何だか分かった気になってしまって、言葉の持つ広がりや深さを考え続けることを簡単にやめてしまっている気がします。私自身は、大学時代ピースボートに乗ったし、卒業後もスリランカで働いたりと、それなりに国際経験を積んで来たつもりでいましたが、やはり日本で日本人としてぬくぬくと生きてきて、まだまだ知らないことばかりだと思うことがアメリカでは多かったです。今回は、UCSDで経験したダイバーシティについて、少し書きたいと思います。

・パスポートの持つ力

私の大学院では、およそ20か国ほどの国籍のクラスメートがいましたが、とても良くしてくれたイラン出身のクラスメートがいました。彼はイランの大学を卒業後にハワイ大学でも修士号を取り、その後UCSDで2つ目の修士号を取得しに来ていたのですが、非常に優秀で早くからリサーチ・アシスタントのポジションを得ていました。私の大学院からは毎年COP25などの国連環境会議に大学を代表して数名出席するのですが、私はてっきり彼がメンバーとして参加したのかと思っていたら、「行かなかったよ。僕はイランのパスポートだから、一端アメリカの外に出てしまうと、最悪入国できないケースがあるからね。リスクを避けたんだ」と淡々と話してくれたのをよく覚えています。私は今まで自分のパスポートがそんな風に、ある国で入国拒否されるかもしれない、という心配をしたことがありません。ロシア出身の友達も同じように話していて、結局2年間の中でほとんど旅行らしきことをしなかったと言っているのを聞くと、身が引き締まる思いでした。

・LGBTQの人たち

西海岸がオープンな社会だから、ということもあると思いますが、大学院の教授室のトイレは男女共用だし、大学院の公認サークルにLGBTQをサポートするクラブがあったり、冬学期が終わったら男子学生が性転換をして女子学生になっていた、など今まで経験したことのない出来事にビックリすることも多々ありました。でも、自分のパートナーが同じ性別であろうとオープンに交際できる環境は、とても良いなぁと思いました。私の日本人の友達にも何人かバイセクシャルの友達がいますが、パートナーとの関係を周りに知らせるのにとても苦労しているのを知っているので、もっと性別や見た目がどうよりも、その人個人をフェアに評価できる社会が育つと良いなぁと思います。

・Diversityに価値を置く大学

私が在籍したころは、大統領令によって中東やアフリカの人々の入国制限を行ったり、中南米からの移民を排斥する等、Diversityの尊重とは逆行する社会の流れが出来つつありました。UCSDにも、そういった国から留学したり、家族と共に移民として定住している学生がいたのですが、必ずそういった大統領令が出ると、即日にはUniversity of California (UC) から全生徒宛に、大学として学生の居場所を確保する努力をする、とか一人一人の声が重要、多様性の尊重は今後も変わらないという、強いメッセージが送られてきました。そのメッセージを受け取った一人として、私は大学というコミュニティが、居心地の良いものとしてあり続けることへの希望を持つことができ、またUCの強いリーダーシップを誇りに思ったものです。

 

最後に、私が初めてNYへ行ったときに行った9.11のメモリアルミュージアムの言葉をもって締めくくりたいと思います。このメモリアルミュージアムはあくまでも、アメリカ人から見た9.11というイベントを描いていて、じゃあその時のアフガニスタンの一般人はどうだったの?という視点が欠けていると感じましたが、一見の価値のあるミュージアムです。そして壁面に、”We came in as individuals. And we will walk out togethr" という一人のアメリカ人の言葉がありました。この言葉を見たときに、私は何のつても知り合いもいないままに一人でアメリカの大学院に来たけれど、約2年間経って、同志と呼べる友達を見つけて、それぞれの未来を歩んでいくんだなぁと感慨深く眺めたものでした。そして、上に述べたような色んなバックグラウンドを持った友達たちと過ごした時間の中で、私自身のDiversityという言葉も少しづつ育った気がします。

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9.11メモリアル美術館にあるメッセージ